三宅氏は、長時間労働を強制するのをやめれば、「働きながら本を読める社会」になるかというとそう単純ではないという(P.244)。ビョンチョル・ハンの『疲労社会』を用いながら、20世紀は、私たちは外部にあるもの(他国との戦争、政府への反抗など)から支配されないためだったが(P.245)、21世紀は、私たちの敵は自分の内側にいるという。外部からの強制ではなく、「自分から」戦いに参加させようとする新自由主義では、私たちが戦う理由は、自分が望むからとされる。その結果として、疲れやすくなり、ハンは鬱病になりやすい社会を「疲労社会」と名づけたようです(P.245-246)。

鬱病になった人から、「自分が悪いんです」ということばをしばしば聞きます。そこまで自分を追い詰めなくても良いのではと思いますが、「それに気づかなかった私たちもいけなかった」と同僚たちも辛い気持ちになることがあります。しかし、それは、当事者だけで解決できるものではなく、”社会から“追い詰められているということがあるのかもしれません。(2025.10.20.)

(参考・引用図書:『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』三宅香帆 集英社新書1212B  2024年)